仁瀬くんは壊れてる
 風邪をひいたくらいで。
 わたしに、拒絶されたくらいで。

 ここまでのこと言うだろうか? 

「泣いてるの、花」
「わたしは、嫌だよ。巧くんが。辛そうにしてるのは」

 それで喜んだりなんて。
 絶対に、絶対にできない。

「消えたりしないで」

 そう言わなきゃ。
 引き止めなきゃ、本当に巧くんがいなくなってしまう気がした。

「テーブルのうえ」
「え?」
「薬が、ある」
「ほんと?」

 急いで向かう。
 目に入った、袋に書かれていた文字。

 “がん医療センター”

「……これ」
「手術」

 他人のわたしが受け入れられないことを。

「しても。助かるかどうか」

 このひとは、受け入れている。

 命を軽くなんて考えていない。

「いくら詰め込んでも、満たされない、人生が。花と出逢って。意味を、持った」

 ねえ。
 
 すごい、汗、かいてるよ。

「病院、行こう」
「いやだ。ここにいる」
「ワガママ言わないで」
「傍にいて、花」
 …………!

 力なんて、出せないくせに。
 グッとわたしを抱き寄せてくる。

「花、お願い。僕のこと。欲しがって」
< 84 / 136 >

この作品をシェア

pagetop