仁瀬くんは壊れてる
「巧、強がりだろ」
 …………!
「はい」
「父さんは、それに気づいていない。なんでも卒なくこなす天才肌の巧に無理をさせ続けてきた」
「…………」
「ごめんね、こんな話」
「……いえ」 
「君みたいな子が。傍にいてくれてるって知って、ホッとしたよ」
「巧くん。しばらく入院するんですか?」
「いいや。結果次第だけど、今夜にでも退院するだろう」
「もう?」
「アイツは自分のカラダがどんな状態か、よく知っている。知らなくていいことまで。なんていうと、語弊があるかもしれないけど。そのうえで巧のとる行動を。僕には、止められない。あいつはもう子供じゃないから」
「……手術は」
「受けたがらない」
「どうして」
「もちろん受けさせるよ。だけど。なかったんだ」
「なかった?」
「巧には、生きる理由が」

 …………!

「子供の頃、フィギュアスケートの大会で。表彰台の一番高い場所にあがった巧は、笑顔で写真に写っていた。だけど。家に帰ると、優勝トロフィーを壊した」
 え……?
「ピアノのコンクールで優勝したときも。自由研究で表彰されたときも。似たようなものさ」
「…………」
「周りの誰もが欲しがるようなものに。巧は、なんの価値も見出せない。一番であることに満足しない。たいていのワガママなら叶うのに。自らは、叶えようとしない」
「そうですか」
「あまり驚かないってことは。巧がどんなヤツか知ってるんだね」
「……少しだけ」
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