仁瀬くんは壊れてる
 わたしは、巧くんの、ヒドイなって思う部分も見てきた。
 それは周りの子は知らない部分なのだろう。

「もちろん父さんは、知らない。というよりは。そこまで巧に関心がないんだ」
 …………!!
「医者としての腕は申し分ないし。取り繕うのが上手いからさ、人脈も広い。だけど息子たちのことは。道具にしか思っていないような人間」
「…………」
「巧の暴力性に気づいている人間は、俺と。あとはそうだな。君くらい」
「小糸井 花です」
「花ちゃん。いい名前だね。俺は――」
「馨さん」
「会えてよかった。もう行かなきゃならない。また話そう」
「はい」

 馨さんと、カフェから出たとき。

「ねえ。花ちゃん」

 真剣な顔で、馨さんがわたしを見つめてきた。

「すごく重いこと、言う」
「……はい」
「巧の希望になってやって欲しい」

 そういって、馨さんが、頭を下げた。

「顔、あげてください」
「俺じゃダメだ」
「……っ」
「一番近くにいられたはずなのに。巧は。俺には心を開かない」
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