vrafara






正直…

その頃のことは
あまり覚えてはいない


8年も前のことだし…
今となっては
あたし自身忘れてしまってるのもあるし

それになにより
小学2年生で
小さかったから
何が起きたのかわからなかったってのもある






それでも断片的でも
覚えてるのは
目が覚めた時のこと




ジリジリと
体を走る強烈な激痛
知らない天井

そして
心配そうに覗きこむ
知らない大人の顔

ぼやける視界に映る
泣いて手を握るお母さんの顔…










…これは後から聞かされた話



病院のベッドで寝かされてた
その時のあたしは
全身包帯だらけだったらしい。

打撲の痕と切り傷や擦り傷…


お母さんもお父さんも
病院に駆けつけて一瞬で
言葉を失うほどで。

大怪我のせいか
言葉さえも話せなかったみたい







でも
そんなケガも
体の傷は1週間もしたら
だいぶ目立たなくなり

ベッドからも動けるくらいに
回復

それでも
夏休みはずっと病院









「こんにちはー」

「おー、元気になったねぇ、
もう痛いところはないかい?」








検査のため

そう言われての入院。


でも
検査なんて
ほとんどなく

ただ毎日、先生と数十分
お話するだけ


体は日に日に
元気に戻り
病院の中を自由に動き回ることもできた


だけど
夏休みが終わるまでの1カ月近く

退院の許可は
ずっと降りなかった











「先生?由良、まだお家帰っちゃダメなの?」


「そうだなあ、あともう少ししたら
帰れるかなぁ」


「…由良、もうどこも痛くないのに…」



「退屈だもんなあ、病院の中は。
でもあと少しだけ、先生とお話してくれたら
嬉しいんだけどダメかい?」


「…うん…いいよ…?」









「…由良ちゃん、
あの日何があったか覚えてるかな?」















あの日の
塔矢と別れた後












「……わかんない……」













そこからの記憶は
ずっと戻らなかった











< 11 / 19 >

この作品をシェア

pagetop