vrafara
頭の中に
真っ白な空間がある
時系列をいくらなぞっても
どうたどっても
その真っ白な空間に色が埋まることは
ずっとなかった
「学校から家に帰る途中で
由良のところに車が突っ込んできたの」
気をつけなきゃね
って
抱きしめるお母さんから聞かされたのは
帰り道であたしが車にはねられて
車は形もないほど壊れて
突っ込まれた家の人もびっくりして
それで大怪我して
あまりのショックで記憶まで消えてしまったという話。
療養してる間
そうなんだって
自分の擦り傷や青あざだらけの体を見るたびに
最初はなんの疑いもなく思ってた
でも
「…由良ちゃん、何か思い出せた?」
「もう何も怖くないからね、大丈夫だよ」
子供ながらにも
何か変って
不自然に感じたのは
妙に腫れものに触るような目で見る
先生や看護師さんの態度
ナースセンターを横切ろうとすると
パタリと止む会話
「お母さん?あの時さあ…」
「もう忘れちゃいなさい?
お母さんは由良が無事だっただけでもういい」
事故のことを
聞こうとすると
強張った顔で
その時の話に触れようとしないお母さんの
視線…
先生も看護師さんも
お母さんもお父さんも
あたしが死んじゃうかもって
きっとすごくおっかなかったんだ
そんなにひどい事故だったんだあ…
そう思ってたあたし
でも
違和感はすぐに現れた
退院して
登校した始業式
もう走って歩けるのに
珍しくお父さんが送ってくれた朝
「あー、由良ちゃんだあー!
夏休み、ずっとおばあちゃんちだったの?」
「え?」
「だってお家行ったら、おばさん言ってたよー?
プール行こうねーって約束してたのにい」
「…由良、おばあちゃんち行ってないよ?
ずっと病院にいたもん」
「えー⁈なんで?病気したの!?」
「ううん?学校から帰るとき車にぶつかったの。
車も突っ込んだところも壊れてパトカーや救急車もきて大変だったんだって」
あたしは全然覚えてないけどね
そう続けようとしたあたしに
返ってきたのは
「えー⁈学校の帰りー?どこだろうー
あたし毎日プール行ってたけど事故あった場所なんてないよー!?」
キョトンとした顔で見る友達の顔…
消えた記憶
空白な時間
辻褄の合わないお母さんの言葉
それが何が
知ることになったのは
この時はまだまだ先のことだった