vrafara
多分分かる
今なら。
自分がファンで推しで
大好きな芸能人とかに
街でばったり会った時の気持ち。
特に芸能人とかそういうものに
あたしはハマったこともないのだけど。
「おまえ、準備サボって、後でいじられるぞ?」
…今ならその気持ち
少しわかる。
いつも遠巻きに眺めてた
憧れの人が
自分の手を伸ばせばすぐ届くくらいの距離で
少し長めのまつ毛とか
笑ったら少し浮かぶエクボとか
頭をかくクセとか
立ち姿とか
それが目の前に
ほんと至近距離。
ポケーっと
目の前で塔矢をクシャクシャにして
笑う先輩と不意に目が合った。
うわあ……
笑うと少し幼くなるんだ…
その視線に一瞬にして
心臓がはねあがる。
「…もしかして、山石の彼女ちゃん?」
「え!いやっ!ちょっ」
カチンコチンに固まって
まともに返事もできないあたしを
横目に大きなため息をつくのは
半ば呆れ顔の塔矢。
「…ちげーっすよ、こいつのお目当て
先輩っすよ」
「ちょっ!塔矢!!」
本人相手に!!
いきなり何言い出すのよー!!
内心パニックで
恐る恐る先輩を見上げると
「えー?俺?」
ちょっと驚いたみたいな顔で
あたしを見下ろすと
照れるなぁなんて
ちょびっとふざけて笑う
「あ、あのっ!あたしたち先輩のファンで!
…練習邪魔しちゃダメなんだけど…知り合いになりたくて…その…っ」
さっきまであたしを盾にして
後ろでキャーキャー言ってたあかりが
ずいっと前に出て
お邪魔してすみませんって
真っ赤な顔で頭を下げた。
それにつられるように
あたしも頭を下げた
「んー、邪魔したってわかってるなら
今回は見逃したげる。次はダメだよ?」
クスクスと笑う先輩の声と同時に
ポンポンとあたしたちの頭を撫でると
「ほら、山石戻るよー」
「うっす」
塔矢を引きずっていく先輩。
「…由良…どうしよ…松木先輩かっこいい…」
「うん…」
触れられたとこに
手を乗せて
ほんの一瞬の先輩の温もりに
ドキドキしながら
その背中に見惚れるあたしたち
初恋…
多分
そんな恋だなんて
言い切れるものじゃきっとない。
アイドルを見て
憧れて、いろんなこと妄想ばかりして。
恋に恋する…
そんなものかもしれない。
でも
触れられた手が
自分のとは違ってて
「男の人」
初めて
そう感じたのは
多分
この時だった