My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
第一部

1.知らない場所




「きゃあ!」

 鋭い叫び声で私は目を開けた。――いつ目を閉じたのか、覚えていなかったけれど。

「え?」

 自分の口からそんな小さな声が漏れる。
 少し見上げた視界の中に大勢の人々が映っていた。
 そしてこちらに向けられた目、目、目……。なぜだか私は人々の視線の中心にいた。
 しかもその人たちの顔は一様に不安げで――。

「そんな、まさか!」

「銀の……!?」

「この国も、もう……!」

 ざわめきの中から聞き取れた声もそんな酷く怯えたようなものばかり。
 でもそれよりもまず気になったのは。

(ここ、どこ?)

 一見してわかるのはここが道のど真ん中であること。
 大通りと言っていいだろうその道の両側には木組みの建物が美しく立ち並び、それは見慣れた日本の風景とは程遠く、テレビや雑誌などで見るヨーロッパの街並みに良く似ていた。

(……どっかのテーマパーク?)

 でもそれは建物だけではなかった。
 今も私を遠巻きに見つめる人々の格好。まずスーツや学生服を着ている人が一人も見当たらない。皆まるで童話の中から抜け出してきたかのような変わった服装をしていた。
 顔立ちや肌の色も良く見ると日本人のそれとは明らかに違う。
 地面もアスファルトではなく、ガタガタの石畳。その上に私は一人ぺたりと座り込んでいた。

(なんで私、こんなとこに座ってるんだっけ?)

 記憶を辿ると、そこは高校の音楽室。
 卒業を間近に控え、私は大好きだった音楽室で一人思い出に浸っていたのだ。

 そう、さっきまで……ついさっきまで、私は学校の中にいたはず。
 それなのに――。
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