My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
一際大きな金属音が響き渡った後、急に辺りはシンと静まり返った。
ごくりと唾を飲み込む。
足音が消えたことから、おそらく追っ手が何者かに倒されたのだ。
(もしかして、ラグ……!?)
私は覚束ない足取りでその角を曲がった。
「!?」
だが、その都合の良い予想は外れる。
地べたに倒れ込む兵士たちの中心に一人立つ人物。
それはラグには似ても似つかない、褐色の肌をした大男だった。
彼の真っ黒な瞳が私を捕らえる。
(闇の民……亡霊!?)
一気にそこまで連想されて、私はヘナヘナとその場に尻餅をついた。
迫力に気圧されてしまったのだ。
筋肉隆々、背は190は優にあるのではないか。
その大きな手には太い棍棒のようなものが握られていた。
あんなもので殴られたらひとたまりもないだろう。
見ると、倒れた兵士の甲冑にぼっこりとへこみができていた。
男が、のっそりと私に近づいてくる。
(もう、ダメ……!)
思わず目を瞑ったそのとき、
「やったね、お父さん!」
(――へ?)
この場に不似合いな無邪気な声に私はぱっちりと目を開けた。
大男の向こうに、数時間前に助けたあの闇の民の男の子がいた。
そしてその後ろで、あの時の白髪の少女がにっこりと微笑んでいた。