My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
私は思わず歓声を上げて視線を移す。
すぐそこの角にラグが立っていた。
だが彼のその表情を見て、すぐに喜んでいる場合じゃないと慌てる。
「そいつをどこに連れて行くつもりだ!」
凄まじい形相で怒鳴るラグ。
(完全に勘違いしてるよー!)
棍棒に突き刺さったナイフを見て今更ながらにぞっとする。――彼は、お父さんの頭を狙ったのだ。
私はラグに向かい叫ぶ。
「ラグ、違うの!」
すると釣り上がっていた彼の眉がぴくりと顰められた。
「この人は私を助けてくれたの!」
そしてそのとき子供達が不安げに小路から顔を出した。
それを見て、ラグは更に疑問の表情を深める。
お父さんは棍棒からナイフを引き抜くと、そんなラグに向かって放り投げた。
それを器用に受け取ったラグが少し迷った後に鞘へと仕舞うのを見て、私はホッと胸を撫で下ろす。と、
「カノンはいたのか!?」
そんな声と共にラグの後ろから姿を現した人物に私は驚く。
「セリーン!」
辺りは大分暗くなってきていたけれど、その赤毛はとても鮮やかに目に映った。
彼女の瞳が私を確認して安堵したように優しく細められる。
だがすぐにその視線は闇の民の親子へと移った。
「あの時の、」
「あ! あの時のカッコいいお姉さん!」
ラウト君がセリーンを指差し嬉しそうに言った。
そして今度は「人を指差しちゃダメでしょ」とお姉ちゃんにまた小突かれてしまった。
私の横でお父さんが短く息を吐く。
「子供達を助けてもらった礼がしたい。……ついて来い」
そう二人に向けて言うと子供達とともに小路に入っていってしまった。