My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
この道――隙間といった方が正しいかもしれない、は一人ずつでしか歩けないほどに狭い。
見ると、体の大きなお父さんは肩を少し斜めにして進んでいる。
「でも良かった。もう会えないかと思ってたから……。あの時、兵士から助けてくれてありがとうございました!」
私は妙にはしゃいだ気分でセリーンにお礼を言う。
「フン、言ったろう? 何処までもお前達についていくと……」
――聞くと、あの後セリーンはすぐに私達を追いかけたのだそうだ。
でもこの複雑な町並みのお陰ですぐに立ち往生してしまった。
そんなときにエルネストさんがあの幽霊のような姿で現れたのだという。
「今カノンが一人で逃げているから助けてやってくれと言われてな。方向を示してくれた」
言われた通りに進むと、ラグとばったり出くわしたそうだ。
「はぁ、もう少し早かったらあの子の方に会えていたのにな、くそっ」
その言葉を聞いて改めてセリーンだ、とまた嬉しくなる。
同時に今まで彼女に嘘をついていたことを思い出した。
「セリーン、ごめんなさい。私、色々嘘ついてた。その……」
後ろを振り向き思い切って謝罪すると、セリーンはふっと笑った。
「謝ることではない。まぁ、驚いたがな。まさか、カノンがあの“銀のセイレーン”だとは」
「……セリーンは、怖くないの?」
緊張しながら訊く。
私から逃げて行った街の人々。
兵士達も、私の歌を恐れていた。
「怖い? カノンを怖いなんて思ったことは一度もないな。あの歌を聴いたときも、別段怖いとは思わなかった。……伝説はあくまで伝説だ。私は自分の見たものだけを信じる」
それを聞いて胸のあたりがジーンと温かくなった。でも。
「それに、銀のセイレーンよりも恐ろしい者を、私は知っている……」
低い声。その視線は私を通り越し、ラグの背中に向かっていた。