My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
その白い家はもぬけの殻だった。
家具も何一つ無いところを見るとやはり誰も住んでいないよう。
もちろん照明器具もなく、ドアが閉まると一瞬視界が真っ暗になった。小さい窓がひとつだけあったが、外も暗いせいでほとんどその意味をなしていない。
「こっちだ」
お父さんの声が奥の方から聞こえた。
家具がないからか元々低いお父さんの声が綺麗に反響し、まるで地の底から響いてきたかのようだった。
私はおっかなびっくりラグの背中についていく。
奥の部屋には、ひとつだけ家具が残されていた。
それはボロボロになった絨毯。
その絨毯の端を先に部屋に入っていたラウト君が捲っていた。
何をしているのだろうとラグの横について目を凝らし見ていると、床に小さなへこみがあることに気がついた。
お父さんが腰を屈めそこに手を入れて引き上げる。
(隠し部屋!?)
石同士が擦れる音と共に床が四角く開いていきドキドキと胸が鳴った。
「地下があるのか」
セリーンも驚いた声を上げる。
「そうだよ。でも絶対内緒だからね!」
ラウト君が得意げに笑ってその開いた穴に両足をぶらつかせた。
「ほら、早く行きなさい」
お姉ちゃんに促されラウト君が体を反転させる。
おそらく梯子か何かがあるのだろう、鈍い金属音を立てながら彼は闇の中に消えていった。
次にお姉ちゃんが下りていく。
「俺は最後にここを隠す。先に行け」
こちらを振り返って言うお父さんに、ラグが不機嫌そうに訊ねた。
「なぜオレ達に教えた」