My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
セリーンは梯子を下りきるとそのすぐ横の壁にもたれた。
石の扉を閉める鈍い音がしてほぼ同時、テーブルの上の蝋燭が大きく揺らいだ。
ぎしぎしと音を立てて下りてくるお父さんをラグは横目で確認している。
と、不意に足元から声が掛かった。
「ねぇ、お兄さん術士なんだね。さっき飛んでるとこ見たよ!」
ラウト君が無邪気な笑顔でラグを見上げていた。
ラグはびっくりしたように顔を引きつらせてから「あ、あぁ」と小さく頷いた。
そんなラグを見て、私はこんな状況だというのに危うく笑いそうになってしまった。
(ラグって、子供苦手そう)
ラウト君はにーっと笑って続ける。
「姉ちゃんもね、術士なんだ! お兄さんみたいに飛べたりはしないけど」
ラグはテーブルの向こうにいるお姉ちゃんの方を見やった。
だが彼女はその視線に気付いてすぐに目を逸らしてしまった。
(あれ……?)
なんだか不穏なものを感じて私は頭に疑問符を浮かべる。
ラグも怪訝そうに眉をひそめた。
よく見ると彼女はとても綺麗な顔立ちをしていた。
蝋燭の仄かな光がそんな彼女の美しさを更に浮き立たせている。
きっと将来はかなりの美人さんになるだろうと予想できた。
(彼女の方がきっと銀のセイレーンっぽいんだろうな……)
ラグが銀のセイレーンは絶世の美女だと言っていたことを思い出して、ふとそんなことを考える。
と、ラウト君が何も言わないラグの顔をじっと見上げているのに気がついて私は慌てた。
「へぇ! そうなんだ。すごいね!」
ラグの代わりに私が答えると、ラウト君はまた得意そうに笑った。
彼はお姉ちゃんのことが大好きなのだろう。それがすごく伝わってきて自然とこちらも笑顔になった。