My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
彼女というからには、メスなのだろう。
でも私はまだその彼女に近づく気にはなれなかった。
「そうだよ! そんなに怖がらないで。ビアンカはとっても優しいんだよ」
「ビアンカ?」
明るく言うラウト君に私は掠れた声で訊く。
もしかしなくても、その白蛇の名前だろうか……?
「そう。ビアンカ。カッコ良いでしょ?」
自慢するように続けるラウト君に、私は頷けなかった。
同じ、名前の付けられたモンスターでもブゥとはまるで違う。
ブゥは見た目可愛くてモンスターだと言われてもピンと来なかった。
だが彼女、ビアンカはどこからどう見ても“モンスター”そのものだ。
そんな彼女と親しげなライゼちゃんたち。
そういえば、さっき二人は誰かに話しかけているようだったが、まさか……。
「まさか、そのモンスターが乗り物ってんじゃねぇだろうな」
ラグが怒りを押し殺したような低い声で訊く。
私も今同じこと考えた。
ラウト君が「カッコ良い」と自慢していた乗り物。
ヴィルトさんの「快適とは言えない」という小さな呟き。
そして、ドラゴンを思わせるその白く大きな翼。
まさか、まさか……!?
「そうだよ! 僕達はビアンカに乗って、ここまで空を飛んで来たんだ!」
得意満面で胸を張るラウト君に、私は眩暈を感じた。
「そんな見たこともねぇモンスターに乗って行くなんて冗談じゃねぇ!」
ラグがすかさず文句を言う。
いつもならそんな彼の態度にはヒヤヒヤさせられるが、今回ばかりは私も同意見だった。
ビアンカの赤い瞳が私達をまっすぐに捕らえたまま離さない。
まるで品定めでもされているようで、なんとも居心地が悪かった。
ライゼちゃん達の助けになりたい、という高ぶった気持ちが、しおしおと萎んでいく。
なんだかいきなり壁にぶち当たってしまった気分だ。
「何で? お兄さんだってモンスターと仲良いのに」
「!?」
ラウト君の何気ない言葉にラグは慌てたように後ろ髪に手をやった。