My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「そろそろ潮が満ちてくる頃です。急いでください」
ライゼちゃんのその言葉に私達は躊躇している間もなく焦ってビアンカに乗ることとなった。
この洞窟の入り口は潮の満ち引きによって現れたり消えたりするらしい。そのおかげでこの国の人たちにも未だ見つかっていないのだという。
「皆さん、準備はいいですか? しっかりと鱗を掴んでいてくださいね」
私達の方を振り向きライゼちゃんが言う。
私はドキドキと高鳴る自分の心臓の音を聞きながらビアンカのひんやりとした鱗をしっかりと握り締めた。
私の前にはラグと、吹き飛ばされないようにとその胸ポケットに入ったブゥ。
後ろにはセリーン。そして最後尾にヴィルトさん。……ちらり後ろを見ると、彼はすでにしっかりと目を閉じていた。
――先ほどラウト君がこっそり教えてくれた。
初めてライゼちゃんたちと会ったあの時、ヴィルトさんはあの地下室で寝込んでいたらしい。
それを心配したラウト君はひとり薬を買うために街に出た。
だがすぐに後を追いかけたライゼちゃんとともにあのバッソとかいう兵士に捕まってしまったのだそうだ。
ヴィルトさんをそんな状態にさせてしまったビアンカの乗り心地は一体どれほどのものなのだろう。
でももう後戻りは出来ないし、したくない。
私は改めて気合を入れた。
「よっし、ビアンカ出発だ!」
先頭のラウト君が岩の間から見える夜空をびしっと指差した。
「ビアンカ、お願いします」
二人の声に答えるように、ビアンカはその大きな白い翼をバサリと動かした。