My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「まさかフェルクレールトに着くまでの間、一度も降りないつもりじゃねぇよな」
ラグが自分の前にいるライゼちゃんに訊く。
「何度か休憩を取りながら向かいます。私達は町には入れませんが、どこか途中で寄りたい場所がありましたら……」
「さすがに腹が減ったんでな、どこでもいいから一度町に降ろしてくれ」
「それならキャルムの町にしよう。美味い料理を出す店がある」
セリーンがライゼちゃんにその町の場所を伝えている間、私は自分も空腹だったことを思い出しゴクリと喉を鳴らした。
と、そのときだ。
「ブゥ?」
そう、ラグが小さく呟くのが聞こえた。
「なに? ブゥどうしたの?」
「……震えてやがる。おいブゥどうした、寒いのか?」
「ぶぅぅぅ~」
返ってきたのはそんな弱々しい鳴き声。
と、セリーンとの話が終わったらしいライゼちゃんがラグの胸ポケットを見て心配そうに言った。
「あぁ、とても怖がっていますね」
「怖が……!?」
「はい。きっとここまで高く飛んだことがないのでしょう。……ビアンカ、お願い。もう少し下を飛んでもらっていい?」
するとビアンカは緩やかに下降し始めた。
「ブゥ、大丈夫か?」
ラグの気遣わしげな声が小さく聞こえてきた。
――まさか、ビアンカと同じく翼を持ったブゥが高いところが怖いなんて思ってもみなかった。
(ブゥのことも気になるけど……)
私はセリーンの背後へと視線を送る。
ヴィルトさんは深く眉間に皺を寄せやはり目を瞑っていた。……その大きな手はしっかりと鱗を掴んでいる。
「そのキャルムの町まではどのくらいかかりそう?」
「おそらく明け方までには着くと思います」
私の質問にライゼちゃんが答えてくれた。
明け方と言っても、今が一体何時頃なのか私には検討がつかなかった。
(なるべく早く着きますように……)
私は様々な意味を込めて白く浮かぶ月に願った。