My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
流石のブライト君も口を噤み、一礼してその場から立ち去ろうとした。が、
「ブライト!」
「はっ」
ライゼちゃんの声にブライト君がすぐさま振り返る。
「私たちが不在だったことは、皆には……」
「ご安心を。まだ誰にも言っておりません」
「そうですか、ありがとう」
そして今度こそ、ブライト君は闇の中へと走り去ってしまった。
思わず安堵の溜息が漏れる。
(でも、ちょっと可哀想だったような……)
なんだか彼はとても必死そうに見えた。
「ライゼちゃん、いいの? 彼、ライゼちゃんのこと心配してくれてたんでしょ?」
「はい。彼は普段はとても温厚なのですが、心配性で。でもまさか矢を放つなんて……。本当に申し訳ありませんでした」
「ううん。でも本当に黙って出てきちゃったんだね」
「はい。言ってしまったら、反対されることはわかっていましたから……」
「僕もお父さんもびっくりしたんだよ! いきなり姉ちゃんがランフォルセまで行くっていうからさ」
再び歩き始めると、ラウト君が器用に後ろ歩きをしながら私に言った。
びっくりした、なんて言っているけれど、本当は嬉しかったのだろう。
ラウト君の表情からそう感じて私は「そっか」と微笑んだ。