My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
8.歌の力
一瞬、別の場所のような感覚に囚われる。
泉には先ほどは無かった月が映っていた。
その美しさに思わず感嘆のため息が漏れるが、ラグがくるりとこちらを振り向き私は気を引き締めた。
「んじゃまず、簡単に術の基礎を教えるぞ」
「はい、先生!」
私は姿勢を正して手を挙げる。
「や、先生はいいから……」
脱力するように言われてしまい慌てて謝った。
咳払い一つしてラグは続ける。
「術ってのは基本万物の力を借りて使うわけなんだが、そのためにはその何かに気に入られなきゃならねぇ。風だったら風に。木だったら……木にな」
言いながらすぐ横にあった木に優しく手を触れるラグ。
そういえば、彼は術を使うときいつも別人のような優しい目をする。
「まぁ、これはそいつの生まれ付いての才能の差も大きいんだが……」
「じゃぁ、ラグは生まれてからずっと色んなものに気に入られてるってこと? やっぱりすごいね!」
「ま、まぁな」
ラグは照れてしまったのか、ふいと私から視線を逸らした。
(お?)
私はそんな彼を見て思い出す。
前にも術を褒めたときに急に機嫌が良くなったことがあった。
……ひょっとすると彼は術のことで褒められるのが単純に嬉しいのかもしれない。
誰だって自分が得意なものを褒められたら嬉しい。
だが彼の場合それがとても意外で、そしてちょっと微笑ましく思えた。
(こんなこと、絶対口に出して言えないけどね)
心の中でこっそり笑いつつ、もうひとつ思い出したことがあった。