My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

「あ」

 言われて私はハっとする。
 こちらの世界の術のように、飛ぶとか、怪我を治すとか、はっきりと目に見える不思議が起こるわけではないけれど、楽しい気分にさせてくれたり、元気をくれたり……。
 改めて考えると歌は凄い力を持っている。
 それはまるで魔法のような“力”だ。

「……うん。確かにそうかも! 歌ってやっぱすごいんだ。うわ、ちょっと感動!」

 私はひとり興奮して言う。
 そんな私をラグは不可解そうに見つめていたけれど。

「ありがとう、ラグ! 私さっきよりももっと歌が好きになった!」
「あ!? あぁ……」
「うん。なんか、今なら出来る気がする! ねぇ、試しに今歌ってみていい?」

 私が張り切って言うと、ラグは一瞬ぎくりと嫌そうな顔をした。

「……こっちに影響出るようなのはやめろよ」
「あ、そうだよね」

 何にしようかと考えて、ふっと頭に浮かんだ曲があった。
 私は泉の方に向かってすぅと息を吸い込む。


 日本名は「埴生の宿」。
 元は「Home, Sweet Home」というイギリスの歌だ。
 その詞には、故郷を愛する気持ちが綴られている。


 ――おばあちゃんの好きだった歌。
 そして、私にとってはおばあちゃんとの思い出がいっぱい詰まった歌だ。
 ラグの教えてくれた、「力を感じろ。信じろ。そして、感謝しろ」の意味はまだ理解出来ていなかったけれど。
 ただ、さっきおばあちゃんのことを思い出したから……。
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