My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
9.迷い
「カノン、そろそろ起きろ」
セリーンの声に私はパっと目を開ける。
「ご、ごめん! おはよう」
なかなか寝付けなかったせいで起きるのが遅くなってしまったみたいだ。
私は慌てて起き上がる。
服の下はすでにじっとりと汗をかいていた。
それでもこの暑さの中眠れたのは、このテントが風通しの良い構造になっているからだろう。
昨夜心地よい夜風の入ってきた地面との隙間から、今は陽の光が入ってきていた。
寝室にライゼちゃんの姿はすでに無い。
「ライゼちゃんは?」
「あの娘なら……」
「おはようございます、カノンさん。良く眠れましたか?」
ライゼちゃんが幕をめくり笑顔を覗かせた。ほぼ同時、空腹を刺激するいい香りが鼻をくすぐる。
でもそれよりも、私は彼女の格好の方に釘付けになってしまった。
その身に、昨日とはまるで違う素敵な衣装を纏っていたからだ。
この国の民族衣装なのだろうか。この暑さにも関わらず手や足など露出を控えた服の構造と黒を基調とした色が、より彼女の素朴な美しさを引き立てていた。
それはまさに、“神導術士”という名に相応しい姿。
「カノンさん?」
「う、うん、おはよう!」
「朝御飯が出来ましたのでこちらへどうぞ」
「え!? ありがとう!」
にっこり笑って幕の向こう側へ戻るライゼちゃん。
(本当にしっかりしてるなぁ……)
感心しながら寝癖の付いた髪の毛を束ねているときだ。
「カノン、昨夜は楽しかったか?」
「え?」
セリーンがなんだか悪戯っぽく目を細めて私を見ている。
「あの男と逢引していたのだろう?」
その、あまり聞き慣れない言葉に一瞬思考が停止する。
だがすぐにその意味にたどり着いて。
「ちっ、ちがっ……!」