My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「なかなか戻らんから何度か探しに行こうかとも思ったのだが、邪魔をするのも悪いと思ってな」
そんな私の反応を面白がるようにセリーンは続ける。
「しかしカノン、あの男はどうかと思うぞ」
「違う違う違う! 違うの!! そ、そんなんじゃなくて、その……術のことを教えてもらってたの!」
「……なんだ、違うのか」
途端つまらなそうな顔をするセリーン。
(セリーンて、意外に恋愛話とか好きなのかも……)
私は少し火照った頬に手を当てる。
そういえば、昨夜もライゼちゃんの婚約者の話に反応していた気がする。
と、そこでふと疑問が浮かんだ。
「セリーンて、小さいラグが好きなんでしょ?」
「あぁ。大好きだ」
真剣な顔つきでセリーンはきっぱりと言う。
「大きなラグには全然興味ないの? 実は彼女いたりとかして……」
今はこうして一緒に旅をしているラグだけれど、ひょっとしたらどこかに帰りを待っているような相手がいるかもしれない。……だが。
「全く持って興味が無いな。や、むしろあの男は大嫌いだ」
やはりきっぱりと言われ思わず苦笑してしまう。
彼女の中では完全に別の人物として認識されているようだ。
「そ、そうなんだ……。そういえば、ラウト君は? 丁度小さなラグと同じくらいだし、ラグみたいにぎゅーってしたくならないの?」
「あぁ、可愛いとは思うぞ。しかしあの子には到底及ばないな。あの可愛くないところが最高に可愛いんだ! とか言っていたら会いたくなってきてしまったではないか!! ……はぁ」
肩を落とし盛大に溜息を吐くセリーン。
(相当ツボだったんだなぁ、小さなラグが)
セリーンに抱きしめられ嫌がるラグを思い出してつい笑いがこみ上げてきてしまった。
「また会えると良いね」
「あぁ。いっそのこと本気であの男に切りかかろうかと思うのだが。死の危険が迫れば流石に奴も術を使うだろう」
「ややや、そ、それはやめてね! お願いだから……」
そんな冗談だか本気だかわからないセリーンの言葉に冷や汗をかきつつ、私達はその部屋を出たのだった。