My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「しかし人数が急に増えて大変だろう。確か村の中に宿や食堂があったと思ったが」
戻ってきたライゼちゃんにセリーンが言った。
(あ、そうだよね。私達がずっとここにいたらライゼちゃんひとりが大変になっちゃう)
だがその時急にライゼちゃんの笑顔が曇った。
「……いいえ。宿も、食堂も、今はありません。皆さんはお気になさらず、この国にいる間はずっとここに泊まってください。食料も、多くはありませんがブライトが定期的に運んでくれますので心配ありません」
微笑みそう言ってくれたライゼちゃんだったが、どう見ても無理をしている感じだ。
私はセリーンと顔を見合す。
今は、ということはセリーンの記憶通り、以前はあったということだろう。
「……この国って今そんなに大変なの?」
改めて訊く。
するとライゼちゃんはとうとう笑顔を無くし俯いてしまった。
――彼女の口からゆっくりと紡がれるこの国の現状は、私が想像していたよりもずっと、酷いものだった。
このフェルクレールトは大戦後、ランフォルセの支配下におかれている、という話はすでに聞いていたけれど、驚いたのは、この国の人たちへの扱いだ。
体力のある若者は奴隷として各国へ飛ばされ、残った力の弱い者たちはこの国でしか採れない農作物を採るため、毎日過酷な労働を強いられているのだそうだ。
「私達一家は皆に大切に隠され、どうにか今まで見つからずにいます。こうして、私達のために食料も運んでくれるのです。……皆、生きるのにも精一杯だというのに……」
辛そうに唇を噛むライゼちゃんに、私は言葉が出なかった。