My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1


 鬱蒼とした高い木々の隙間から陽の光が注いでいる。
 目を閉じて耳を澄ます。聞こえてくるのは叫ぶような甲高い鳥の声と風にざわめく葉擦れの音。
 そんなむせ返るような自然の香りを胸いっぱいに吸い込む。
 そして、それはそのまま大きな溜息となった。

 ――勿論、歌の練習というのは口実だ。
 ライゼちゃんのいるあの場にいられなかった。
 私はきっと、不安を感じながらもどこか簡単に考えていたのだ。
 だからこの国の現状を聞いて急に自信がなくなってしまった。
 ……違う。怖くなってしまったんだ。
 昨夜のラグのセリフが蘇る。

 ――こいつに何が出来るってんだ!? アホらしい! そんなことで変わる世界なら、とっくに変わってる!

 あの言葉は、この国の……この世界の現状を知っているから出たもの。
 今ならラグがあんなに怒った気持ちが良くわかる。

 私は所詮、別の世界の、平和な国で生まれ育った人間。
 この世界のことは何も知らない。……知るはずが無い。
 そんな私がこの国を救いたいだなんて、とんだ思い上がりだ。
 そして結局、こうして逃げ出すように一人テントから出て来てしまった。

「最低だ、私……」

 そのとき、ふいに草を踏みしめる音が聞こえてきた。
 顔を上げると昨夜のみつあみの少年――ブライト君の姿が見えた。

 彼もすぐに私に気付いたようだ。落ち着いた足取りでこちらにやってくる。
 その手には昨夜と同じく弓がしっかりと握られていて瞬間ドキリとしたけれど、彼に昨夜のような切羽詰った雰囲気はなかった。
 おそらくライゼちゃんから言われた通り話を聞きにきたのだろう。
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