My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
彼は私の前まで来ると、深く頭を下げた。編んだ長い黒髪が背中からこぼれる。
「昨夜は申し訳ありませんでした。ライゼ様の恩人とも知らず、大変失礼なことを……」
「う、ううん! 誰だって急に大切な人がいなくなったら心配するよ」
私は手を振って言う。
……正直、今の気持ちで彼と話をするのは辛かったけれど。
ブライト君がゆっくりと顔を上げる。
「はい、ライゼ様はこの国になくてはならない存在。……本当に心配しました」
不思議な雰囲気を持った男の子だと思った。
昨夜あんなに取り乱した姿を先に見てしまったからだろうか。
今は喋り方もとても落ち着いていて、笑顔はなくてもその温和な雰囲気がこちらに伝わってきた。
「申し遅れました。私はライゼ様の守り役、ブライトと申します」
「あ、私は華音といいます。よろしくお願いします」
私も慌てて自己紹介し頭を下げる。
だが次に顔を上げた時、彼の漆黒の瞳は真剣なものへと変わっていた。
「失礼ですが、あなた方はなぜこの国に? それに、ライゼ様の恩人というのは一体……」
私は言葉に詰まる。彼の質問は尤もだ。でも。
(歌でこの国を救いに来ました、なんて言えるわけ――)
「その話ならお前の主人に訊け」
私は驚いて声の方を向く。
不機嫌そうなラグがこちらに歩いてきていた。