My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

 ラウト君もお父さんの隣でジャンプしながら「もう一回! もう一回!」と手を振っていた。
「カノンさん、もう一度お願いします」と、ライゼちゃんの優しい声。
 少し離れたところに立っているセリーンも目を細め頷いた。

「うん! じゃぁ、今度はみんなも一緒に歌おう!」

 私が笑顔で言うと、とびきりの笑顔が一斉に返ってきた。

「あ、そうだ。綿菓子っていうのは、甘くてふわふわなお菓子のことでね、」

 この世界にはおそらく綿菓子は無いだろうと思って、説明していく私。
 でも子供達の笑顔がそこで急に途切れてしまった。
 あれ、と思っていると後ろから言い辛そうに小さな声がかかった。

「カノンさん、この子達はお菓子をほとんど食べたことがありません」

(あ……)

 高揚して熱くなった心に、冷たい水滴が落ちるような感覚。
 普通の食事も満足に出来ていないだろうこの子たちに、甘いお菓子のことを説明するなんて……。
 子供達は私の話の続きをじっと待っている。
 罪悪感で頭が真っ白になりかけた、そのとき。

「――み、皆で『ファ』が付くものを考えてはどうでしょう」

 そう声を上げたのはブライト君だった。
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