My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
張り詰めた空気の中、セリーンがその後を続ける。
「誰も、まさか術士が戦争に加わるとは思っていなかった。当時無名だったストレッタの名はある日を境に一気に広まっていった。世界初の魔導術士養成機関としてな。大戦後、ストレッタはあくまで中立的な立場をとってはいるが、その名によって今このレヴールを支配していると言っても過言ではない。……皆、あの日の再来を恐れている」
「あの日って?」
「……数人の魔導術士によって、ひとつの街が滅びた。それも、一瞬でな」
(一瞬で、ひとつの街が……?)
瞬間、頭に浮かんだのは巨大なきのこ雲。
そう、日本人で知らない人はいない。
一瞬にして長閑な街を地獄にした、最悪の兵器“核爆弾”。
同じようなことがこのレヴールにも……それも、魔導術士達の手によって行われたというのだろうか。
何度かラグの術を目の当たりにしているけれど、あの恐ろしい核兵器とはどうしても結びつかない。
(ラグも、術で人を殺したことがあるのかな……)
いつの間にか、強く握り締めていた拳が汗でぐっしょりと濡れていた。
「私は、伝説の銀のセイレーンより、奴等の方がよっぽど恐ろしい」
セリーンの低く小さな声音。
彼女はその大戦の最中、どんな恐ろしいものを見てきたのだろうか。……私には想像もつかない。
狭い部屋の中に流れる重苦しい沈黙の刻。
それを破ったのは、ライゼちゃんの幾分か明るくなった声だった。
「急にお話に入ってしまって、失礼しました。父が昼間言っていたように、魔導術士はもう私たちの敵ではありません。お夕飯が出来ていますので、こちらにいらしてくださいね」
「あ、うん。ありがとう!」
ライゼちゃんはにっこりと微笑んで幕を下ろした。