My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「私、ちょっとラグのところに行って来るね」
ライゼちゃんが席を外した隙に、私は立ち上がりセリーンに言った。
なんとなくライゼちゃんのいる前では言い出し辛かったから。
「昨日のお礼、言ってこようと思って」
「そうか。一人で平気か?」
「うん。大丈夫!」
私は笑顔で手を振って、ひとりテントを出た。
昼間よりはいくらか冷えた心地の良い風が頬を撫でる。
昨夜と同じ、虫たちによる煩いくらいの大合唱。
中には明らかに虫ではない、聞いたことの無い生き物の声も混じっている。
想像のつかないその姿に少しだけ身震いして、私は歩き出した。
真っ暗な森の中、前方にほんのりと見える灯りを目印に。
と、そのときだ。
「カノン様」
「!?」
唐突に声を掛けられ心臓が飛び上がる。
そこにいたのは、みつあみの少年。
「び、びっくりした。ブライト君!」
「あ、驚かせてしまって申し訳ありません」
私はほっと息をついて、首を振る。
「ううん、大丈夫。今戻ってきたんだよね、お疲れ様! ライゼちゃんに報告?」
「はい。それと、カノン様にお礼をと」
「その、カノン様ってちょっと恥ずかしいな……って、え? お礼?」
姿勢を正して、ブライト君は私に深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。カノン様のお蔭で、久し振りに子供達の笑顔を見ることが出来ました」
まさか彼からお礼を言われるとは思っていなくて、私は慌てて両手を振る。
「や、私はただ歌っただけだし! 寧ろ……そ、そうだ! 私の方こそブライト君にお礼言おうと思ってたんだ!」
「え?」