My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
(あ……)
チクリと胸が痛んだ。
――ライゼちゃんと同じ神導術士であり、若くして亡くなってしまったというライゼちゃんのお母さん。
「フェルネ様が生きておられた頃のライゼ様は本当に良く笑っていらっしゃいました。そして、……良く泣いていらっしゃいました」
「泣いて?」
「はい」
ブライト君が目を細め頷く。
しっかり者なお姉ちゃんというイメージがあるからか、私には泣き虫なライゼちゃんが想像できない。
その頃を思い出すように視線を落としブライト君は続ける。
「丁度大戦が終わったころでした。……なぜ神導術士は何も出来ないのか。なぜ、自分達にだけこうして食料があるのかと、フェルネ様に泣きながら訊かれる姿を度々目にしました」
そう話すブライト君の顔は酷く悲しげで、そして誇らしげでもあった。
彼は、そんなふうに泣くライゼちゃんの守り役であることをとても誇りに思っているのだろう。
「しかし、それから間もなくしてフェルネ様が亡くなられ、泣かれることも、それまでのような笑顔を見せてくださることもなくなってしまいました。……それから、ライゼ様は神導術士として立派に民の支えとなってくださっています」
胸がぎゅうっと締め付けられる感覚。
同じ神導術士であるお母さんを亡くしたライゼちゃん。
とても悲しく、寂しかったに違いない。
でもきっと彼女は、神導術士としての立場を優先させたのだ。
「ライゼちゃんて、強いね」
「はい、とても……。でもそんなライゼ様を見ているのは辛かったです」
――ブライト君の言っている意味がわかったような気がした。
ライゼちゃんが時折見せる威厳に満ちた表情。あれが神導術士としての彼女の顔。
そして今日のような年相応の可愛らしい笑顔が本来の彼女の顔なのだろう。
私はテントの方を振り返る。
あの歳で、一人でこの国の皆を支えようと頑張っているライゼちゃん。
(それだけでも凄いと思うのに……)
「ライゼちゃんね、言ってた。自分は皆に守られている存在で、そんな自分が歯がゆいって」