My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
ブライト君が寂しそうに睫毛を伏せる。
「私にも話してくださることがありました。最近は、特に……。ですからライゼ様が急にいなくなられたとき、もしやと思ったのです」
と、彼は姿勢を正しまっすぐに私を見た。
「ライゼ様はカノン様にお会いしたことで答えを見つけられたのだと思います」
「え?」
「今朝、カノン様の歌を聴いて欲しいと言ったライゼ様の笑顔、本当に嬉しかった。もう一度あの笑顔を見ることが出来るなんて……。ですから、カノン様には本当に感謝しています」
そしてもう一度、ブライト君は私に向かい深く頭を下げた。
私は今日のライゼちゃんの笑顔を思い出しながら、彼に言う。
「ライゼちゃんもさ、ブライト君を信頼していたからこそ思い切ってこの国を出られたんじゃないのかな」
ブライト君が驚いたように顔を上げる。
「お互い信頼し合ってるなんて、さすが幼馴染だね!」
途端、彼の顔が夜目にもわかるほど真っ赤に染まった。
「そ、そんな、幼馴染なんて恐れ多いです! 確かに幼い頃は良く遊ばせていただきましたが……」
しどろもどろになっている彼に私はにっこりと笑いかける。
「頑張ってね、ブライト君!」
「え? 頑張るって……」
呆けたように棒立ちになっている彼に手を振って、私はその場から立ち去った。
(信頼か。いいなぁ)
夜の森を進みながら、知らず溜息が漏れていた。
――私にとって、今この世界で一番身近な存在である、ラグとセリーン。
私は二人を心から信頼しているけれど、きっと一方通行だろう。
信頼関係を結ぶにはそれなりの時が必要になる。でも私はいつこの世界からいなくなるかわからない。
そんな相手を信頼するのは、普通に考えて難しいだろうから……。
だから、固い信頼関係で結ばれている二人が少し羨ましく思えたのだ。それに。
(幼馴染、か。……やっぱり羨ましいな)
と、そのときだ。
「ぶ~!」
虫の声に紛れて微かにそんな声が聞こえた気がした。森の奥の方からだ。