My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
そちらの方を向くと白いほわほわした物体がこちらに飛んでくるのか確認できて、思わず歓声を上げる。
「ブゥ!」
私は飛んできたブゥを両手で優しく受け止めた。
「そっか、もう起きてる時間だもんね。ひとり? もうご飯食べた?」
「ぶぶぶ~」
何を言っているかは勿論わからなかったけれど、ちゃんと答えてくれて私は嬉しくなる。
「ブゥは、私のこと信頼してくれてる?」
「ぶ?」
手のひらに乗ったブゥは不思議そうに私を見上げた。
と、ブゥが飛んできた同じ方向から草を踏みしめる足音。
闇の中からゆっくりと現われたのは、ラグだった。
水浴びしてきたのだろう、無造作にまとめられた黒髪が濡れている。
――瞬間、先ほどセリーンから聞いた話が蘇った。
でも思ったとおり、彼に対して恐いとかそういう感情は湧いてこなかった。
私は昔の彼のことは知らない。
私が知っているのは、短気で口が悪くて誰に対しても偉そうで、でもいつも私を助けてくれる、そんな今の彼。
何でここにいるんだと言いたげに眉を顰めた彼に、私は慌てて口を開けた。
「丁度良かった! 今ラグに会いに行こうとしてたの」
「何だよ」
相変わらずの素っ気無い返答。
でも私は笑顔で続ける。
「お礼を言いにきたの」
「あ?」
「ラグのお蔭で、今日ちゃんと皆の前で倒れずに歌えました。ライゼちゃんにも喜んでもらえたし……。だから、ありがとうございました!」
先ほどのブライト君のように深く頭を下げる。
本当に感謝していたから。
彼にとっては色々と複雑だろうこの国に、こうして一緒に来てくれたことも含めて。
――しかし、この後の彼の言葉に私は耳を疑うことになる。
「なら、もう気は済んだんだな」
「え?」
溜息交じりに彼は続ける。
「明日、朝一でこの国を出るぞ」