My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
それから更に30分ほど走っただろうか。
闇の中ちらちらと明かりが見えはじめた。
ラウト君はもっと早く進みたかったのだろうけれど、私の体力が追いつかず途中何度も立ち止まってしまった。
「ほらお姉さん、もう少しだから頑張って!」 なんて言われてしまって、情けなくて苦笑するしかない。
しかし住居らしきものが確認出来る所まで近づくと、ラウト君の行動が途端ゆっくりになった。
(誰かに見つかったらマズイもんね)
慎重にならなければ。
荒い息を整えながら、私も気を引き締めた。
「あそこに見えるのがクラールの家」
木の影から指差した先を見ると、今ラグが寝泊りしているラウト君の家と同じ造りの住居が確認できた。
だが大分小ぶりで、しかもかなり寂れて見える。
ほんのり中の灯りが漏れていなかったら人が住んでいるとは思わなかっただろう。
「僕先に行って見てくるからちょっと待ってて!」
「あ、うん。……早くね!」
なんとなく心細くなって小さく叫ぶとラウト君が手を振って答えてくれた。