My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
こちらに一歩一歩近付いてくる足音。
そして気付く。クラール君の傍らに置かれた蝋燭は、まだ新しいものだってこと。
こんな状態のクラール君が火を付けたとは思えない。ということは、やはり彼を看ている誰かがいるのだ。
(ど、どうしよう、隠れるところもないし、といって今更逃げるわけにも……)
焦ってうまく働いてくれない頭。
その時ラウト君が私の腕をぎゅっと掴んだ。彼の動揺が腕を通して伝わってくる。
入口の布に手が掛けられた。
咄嗟に私はラウト君の前に出る。――彼を隠さなくてはと思った。
「え?」
聞こえたのは、そんな間の抜けた声。
そして私も、入ってきた人物を見て同じような間の抜けた声を出してしまっていた。
「ブライト、くん?」
「カノン様? え、なんで……」
そう、入ってきたのはつい先ほど別れたばかりの三つ編みの少年だったのだ。
口をぽかんと開けたまま呆然と私を見つめる彼の手には、水の入った器が握られていた。
「ブライト!」
「ラ、ラウト様!?」
私の背後から飛び出したラウト君を見て、その顔は一気に焦りへと変わる。
「な、なぜラウト様がこのような場所に……!」
「クラールどうしちゃったんだ!? 治るよね、ねぇ!」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい! どういうことです? なぜラウト様がここに、なぜクラールを知っているんです!?」
「僕の友達なんだ! ねぇブライト、クラールを助けてよ!」
「友達って……」
噛み合わない会話。
混乱した様子のブライト君の服を掴み、ラウト君はただ必死に助けてと叫んでいる。