My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
 ヴィルトさん程ではないが大きくがっしりとした体格の男の人。
 村人かと思ったが、違う。

(……最悪だ!)

 全身に緊張が走る。
 灯りに照らされたその顔は一目でこの国の人間じゃないとわかった。
 おそらく向こうも同じことを思ったのだろう。
 不審そうに私の全身をじろじろと見回してくる。

「なんだぁ、ついに幻覚かぁ? そんなに飲んじまったかぁ……ひっく」

 見ると彼は酒瓶らしきものを手にしていた。
 足元もふらついているし、喋り方も明らかに呂律が回っていない。

(これなら、逃げられる!)

 そう思い私はすぐさま森の方へ向かい走り出した。
 夜の森の中へ入ってしまえばいくらでも隠れることが出来る!
 それに向こうは私を幻覚だと思ってくれているようだ。
 酷使し過ぎですでに悲鳴を上げている足を叱咤して、私は全速力で逃げる。

 今の人物が、ほぼ間違いなくランフォルセから来ているという駐在員だろう。
 なんでこんな時間にこんな場所で酒を片手にフラフラしているのかはわからなかったが、

(捕まったらマズイよ……!)

きっと何でこの国にいるのか、どうやってここまで来たのかを厳しく尋問されるに決まっている。
 それに銀のセイレーンのことも、最悪もう伝わっているかもしれないのだ。
 頭に浮かんだ最悪の事態を慌てて打ち消し、逃げることに集中する。

 しかし背後から迫ってくる足音は予想よりずっと速かった。
 少人数でこの国に派遣されてきているらしい彼ら。ある程度体力が無ければ勤まるはずがない。

 ――ヤバイ!

 そう思うと同時、ガっと強く腕を掴まれた。

「きゃあああ!!」

 驚きと恐怖で私は悲鳴を上げていた。
 バランスを崩しその場に転倒する。そして男はそんな私の上に伸し掛かってきた。
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