My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「下ろすぞ」
「うん、ありがとう!」
クラール君の家の前でラグの背中から下りた私はすぐに家の中に入った。
蝋燭が先ほどよりも大分縮んでいる。
その頼りなく揺れる炎の下で、クラール君は先ほどと変わらずただ静かに横たわっていた。
酷く弱いながらも胸が上下しているのを確認してホっとする。
続いてラグが家の中へ入ってきた。
「この子、クラール君ていうんだけど、もう何日も何も食べてないんだって。なんとかラグの術で元気にしてあげられないかな?」
説明しながらラグを見上げ、気付く。
彼は目を見開きクラール君を凝視していた――と思ったが違う。その青い瞳は焦点が定まっていない。
そしてその腕が小刻みに震えていた。
「ラグ?」
「!!」
声を掛けると彼はビクリと反応して、焦ったようにこちらに視線を向けてきた。
心なしか顔色が悪い。それは、私を負ぶってここまで走ったからでは無いような気がして……。
「大丈夫? なんか、」
「あ、あぁ。いや、……大丈夫だ」
「でも」
全然大丈夫そうじゃなかった。
彼の頭の上に乗ったブゥも心配そうに相棒の顏を覗き込んでいる。
でも彼は首を振り、もう一度大丈夫だと言った。
「――で、あのガキを助けろって?」
「え? あ、そうなの!」
ラグのことも気になったけれど、今はクラール君の方が心配だ。
彼の呼吸はいつ止まってしまってもおかしくないくらいに浅く弱い。
ラグはゆっくりと少年に近付き、彼の枕元に膝を付いた。
全身を確認するように見回した後、
「無理だな」
「え……」
きっぱりと言われ瞬間息が詰まる。
「癒しの術はそいつの本来持ってる自己治癒力を高めるもんだ。こいつの場合、どこかが悪いってわけじゃなさそうだが」
確かに、ブライト君はどこが悪いとは言っていなかった。
ただ、生きる気力が無いのだと……。