My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
歌が終わりを迎え、私は息をついて閉じていた目をゆっくり開いていく。
どうか、クラール君が目を覚ましていますように……そう願いながら。
でもその時、背後で大きな物音がした。
驚き振り返ると子供達の向こう、入口のところで壮年の女性が一人倒れ込んでいるのが見えた。
まるで腰を抜かしたようなその格好に、私はハっとする。
「ぎ、銀の、セイレーン……!」
私の方を見上げ、震える声でそう呟いた女性は子供達と同じくボロボロになった布を纏い、その身体は酷く痩せ細っていた。
彼女だけではない。その後ろにも何人もの女性の影。
皆目を見開きこちらを……私を凝視していた。
(まずい!)
私はとっさに頭を隠すように腕を上げた。髪がまだ銀色に輝いていたからだ。
でももう遅い。完全に見られてしまった。
子供達ではなく、何の説明も受けていない大人達に。
一緒に歌ってくれていたブライト君も今気付いたのだろう。その顔が可哀想なほどに青ざめていた。
良く考えれば当然のことだった。
子供達がこの場にいるということは、私達の歌が外にまで響いていたということ。
夢中だったとはいえ、そんなことにも気付かないなんて……!
「ママ?」
一人の女の子が倒れこんでいる女性を見て不思議そうに声を掛けた。
途端、女性はハっとその子を見上げるとすぐさま立ち上がりその子の腕を強く引っ張った。
「何やってるのアンタは! 逃げるわよ!!」
その声は悲鳴に近かった。
だが女の子は首を傾げ可愛い声で言う。
「なんで? 歌を歌ってただけだよ? クラール君が元気になりますようにって」
嬉しそうに話す女の子。
だがそれを聞いた母親はショックを受けたように目を見開いた。
「歌ってたって、アンタ、なんてことを……!」
「私が説明します! こ、この方はカノン様といって、ライゼ様がこの国に――」
ブライト君がそう説明し出した時だった。
「クラール!!」
背後で大きな声が上がった。それはラウト君のもの。
皆の視線が一斉にラウト君へ、そしてその傍らに横たわる少年に集まる。