My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

「!!」

 彼が、クラール君が目を開けていた。
 ぼんやりと上を見上げるだけだったが、確かにその目は開いていた。

「クラール! わかる!? 僕だよ! ラウトだよ!!」

 そんな彼に必死で呼びかけるラウト君。
 すると天井を見つめていた黒い瞳がゆっくりとラウト君の方へと動いた。
 そして、

「ラ、ウ……ト?」

掠れた小さな声。
 でも確かに、それはクラール君の口から出たものだった。
 ラウト君が身を乗り出し再び彼に声を掛ける。

「うん、ラウトだよ! よかった、良かったぁ~~っ」

 その声はそのまま泣き声へと変わった。
 後ろの子供達からも歓声があがる。

「……母さん……が、」

 クラール君が再び天を見上げながら口を開いた。
 その声は耳を澄まさなければ聞こえない程に小さい。

「……母さんと、父さんの声が聞こえて……みんなの声が聞こえて、起きなきゃって、思って……」

 彼の目の端から一筋、涙が伝った。
 ラウト君がそれを見ながらズーっと鼻を啜り、少し怒るように言う。

「うん、そうだよ! 皆で、お前のこと呼んでたんだぞ!」

 私は自分もまた視界が潤んでいることに気付く。
 目を覚ましてくれた。……想いが届いた。
 そしてラウト君が、子供達が喜んでくれた……!

 しかし、感動に浸っている暇はなかった。

「今のうちに早く!」
「こっちに来なさい!!」

 その声に我に返ると、女性達が一斉に子供達を連れて家から飛び出して行くところだった。
 何も言わず必死な形相で駆け入ってきて子供を抱きかかえ逃げていく人もいる。
 子供達は皆、なぜ自分の親がこんなにも慌てているのかわかっていない様子だった。
 何も言えなかった。
 怯えながらも必死に子供を助けようとする母親の姿を、私はまるで人事のように眺めているだけだった。
 ブライト君だけが何度も皆に声を掛けてくれていたが、聞く者は誰一人いなかった。

 ――髪の色が元に戻る頃には、子供達はもう誰も残っていなかった。
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