My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
さっきまであんなに楽しく合唱の響いていた家の中がシンと静まり返る。
聞こえるのはラウト君の鼻をすする音だけだ。
「カノン、」
セリーンの気遣うような声に私は顔を上げる。
彼女は私のそばに寄り、大丈夫かと続けた。
ブゥも私の肩にちょこんと乗って心配そうに顔を覗き込んでくれた。
「うん、大丈夫だよ! ……でも、大変なことになっちゃった」
ライゼちゃんは徐々に村の人に私のことを話すと言っていた。
それは今のような混乱を避けるために違いない。
それなのに……。
と、皆を追って外に出ていたブライト君が戻ってきた。
「皆、行ってしまいました。……申し訳ありません! 子供達には、親にはまだ歌のことは秘密にするように言ってあったのですが」
「ううん、あの状況じゃしょうがないよ。みんなすごく楽しそうだったもん。私みんなが一緒に歌ってくれてすごく嬉しかった」
それは本心からの言葉だったが、浮かべた笑みはぎこちないものになってしまった。
「……でも、村の人達を怖がらせちゃった」
セリーンがそんな私の頭を撫でながら言う。
「だがそのお蔭でその子が目を覚ましたんだ」
「うん……」
「私も、気配に気付いたときにすぐに止められれば良かったのだが、何も出来なかったんだ」
「何も出来なくなるんだよ。お前の歌を聴いているとな」
それまでずっと黙っていたラグが溜息交じりに言う。
「それがお前の、歌の力なんだろう。……あいつらにとったらそれだけで十分に恐怖だ」
そういえば前にも歌っている間動けなかったとセリーンが言っていたことを思い出す。
「歌の力、か。凄いものだな。歌というものは」
セリーンが難しい顔で呟いた。
「でも一緒に歌っていた私や子供達は普通に動けました。そういう、ものなんでしょうか……あっ!」
思い出したようにブライト君はクラール君の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか? 気分は? 水は飲めますか?」
「そうだ、喉渇いてるだろ? 水飲めよ。何も食べてないんだろ?」
ラウト君もそう言いながら枕元に置いてあった水差しをクラール君の口へ持っていく。
少量の水をクラール君が口に含むのを見て改めてホっとする。
まだ元気とは言えないけれど、多分もう大丈夫だろう。