My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
と、ラグが面倒そうに言った。
「さぁて、どうなるか。武器を持って襲ってくるかもしれないぜ、あいつら」
「そ、そんなことはないと」
「言い切れねぇだろうが」
ラグに遮られ、ブライト君は押し黙ってしまった。
……そうだ。ルバートでは兵士達とは別に自警団の人たち……つまりは普通の街の人達までが私を殺そうと追いかけてきた。
その時の恐怖を思い出しごくりと喉が鳴る。
「面倒なことにならねぇうちに、さっさとこの国を出た方がいいと思うがな、オレは」
「でも……」
私は拳を強く握る。
このまま村の人に、歌は恐ろしいものと思われたまま帰りたくなかった。
折角、子供達は楽しいものだとわかってくれたところだったのに……。
だがそこで私はあっと大きな声を出した。
皆が驚いたように私を見る。
重大なことを忘れていた……!
セリーンがそんな私を見て眉を寄せる。
「どうした?」
「じ、実はさっき――」
私は、あの酔っ払ったランフォルセの男の人を気絶させたままにしてきてしまったことを話した。
それを聞いて真っ先に顔色を変えたのはブライト君だ。
「そ、それはまずいです! その男はカルダと言って、暴力的でどうしようもなく最低な男なんです。きっと目が覚めたらカノン様を捜すはず……いや、もう目を覚まして捜しているかもしれません! 早くライゼ様の元へお戻りください!」
「その方がいいな。行くぞ、カノン」
セリーンに言われ、私も頷く。
ブライト君は続けてラウト君へ真剣な顔を向けた。
「ラウト様、今はライゼ様のところへお戻り下さい。クラールは私が看ていますから大丈夫です」
「うん、わかった。……クラール、また遊ぼうな! 早く元気になれよ!!」
すると、クラール君が初めて顔に笑みを浮かべ小さく頷いた。
それに安心したのか、ラウト君も力強く頷いて立ち上がった。
「でも、ブライト君は? ここに居て大丈夫なの?」
訊くと彼は私を安心させるように微笑み言った。
「ご心配なく。私は大丈夫です。それに、私は今夜中にもう一度村の皆を説得しに行くつもりです。ライゼ様のためにも……。さぁ、行ってください。私も明朝までにはそちらに参ります」
そう言った彼の顔はとても凛々しく、大人びて見えた。
あの、顔を真っ赤にしてうろたえていた少年と同一人物とは思えない程に。
そうして、私達はクラール君の家を後にした。