My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「僕ね、ベレーベントの村に友達がいるんだ。クラールっていう。時々遊びに行ってたんだ、一人で。危ないってわかってたけど、でも、僕……」
そこで続けられなくなってしまったのか、ラウト君は俯いて黙ってしまった。
ずっと嘘をついていたことを告白し、今度こそ怒られる、そう思っているのかもしれない。
でも、その後ライゼちゃんの口から出た言葉は意外なものだった。
「知っていたわ」
「え?」
ラウト君がびっくりした顔でお姉ちゃんを見上げる。
「気付いていたのよ、ラウトが良く村へ行っていたこと。知っていて、私も父さんも止めなかった。――村へ行った日のラウトは本当に嬉しそうだったから。心配ではあったけれど、あのブライトも気付いていなかったくらいだから、そんなに危ないことはしていないと信じて黙っていたの」
ラウト君は口をポカンと開けてそんなお姉ちゃんの話を聞いていた。
「ラウトは男の子だもの。こんな狭いところに閉じこもっていないで、本当はもっとたくさんのお友達を作って、もっと色んな場所に行ってみたいわよね。……こんな時代じゃなかったら……。だから、父さんも私も止めなかった」
まだ戸惑った様子でお姉ちゃんとお父さんを交互に見上げたあと、ラウト君は鼻を啜りながらもう一度、ごめんなさいと謝った。
そんな弟を、ライゼちゃんはもう一度強く抱きしめた。
――こんな時代じゃなかったら――
そう言ったライゼちゃんの表情は優しくて、そして酷く切なげだった。
もっと色んな場所に……それは、もしかしたら彼女こそが一番に望んでいることなのかもしれない。
彼女の、――神導術士の運命を考えたらそう思えた。
それからライゼちゃんは私の顔の傷を術で簡単に癒してくれた。――ラグと同じように。
魔導術士と神導術士。呼び名は正反対に違っていても、やはり二人は同じ奇跡を起こせる術士なのだ。
しかし、依然として二人が目を合わせることは無かった……。