My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「そうですか、そんなことが……。カルダのことは私もブライトから聞いています。まさかあの男がカノンさんに……」
村での出来事を話すと、ライゼちゃんは辛そうに目を伏せた。そして。
「カノンさん、今すぐにこの国を出てください」
「え!?」
その顔は、いつの間にか神導術士のものになっていた。
「カノンさんにはもう十分過ぎる程のことをしていただきました。心から感謝しています。しかし、これ以上この国にいていただけば、カノンさんを更に危険な目に合わせてしまうことになるでしょう」
「そんな!」
彼女のその気迫に負けないよう、私は精一杯真剣に言う。
「私はまだ帰るつもりなんてないよ、ライゼちゃん。だって、村の人には歌のこと誤解されたままだし、あのカルダって男が村の人に酷いことするかもしれないのに自分だけ逃げるなんて出来ないよ」
「ですが……」
彼女の、神導術士の顔が揺らぐ。
あともう一息と、私は続けた。
「ね、せめて村の人たちが大丈夫だってわかるまでは此処にいさせて? もし何かあったとき人数は多い方がいいでしょ?」
最後は笑顔で言うと、ライゼちゃんの顔が一瞬泣き出しそうに歪んだ。そしてそれを隠すように彼女は深く頭を下げた。
「本当に、本当に、ありがとうございます。カノンさん……っ」
そのか細い声は威厳も何もない、一人の少女のものだった。
そのことに安堵した私は、後ろにいるラグとセリーンを振り返った。
セリーンはそれに気が付くとすぐに目を細めて頷いてくれた。
ラグは案の定眉間にたくさんの皺を寄せていたけれど、視線を外しふんっと鼻を鳴らしただけで、何も言わなかった。
……勝手にしろ、ということだろうと私は勝手に解釈することにした。