My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「……ブライト君が、お医者さん……」
私は呆然と繰り返す。
確かにブライト君はクラール君を看てあげていた。
でも私が想像する“お医者さん”とのギャップに俄かには信じられなかった。
と、その時急にライゼちゃんの顔が曇った気がした。
「本当はもう一人、医術の心得を持つ者がいたのですが……その者は戦にも長けていたためにどこかへ連れて行かれてしまいました」
「大丈夫だ。フォルゲンは必ず戻ってくる」
その声はそれまでずっと黙していたヴィルトさんのものだった。
低く、でも優しげな声音にライゼちゃんが目を伏せながら微笑する。
なんとなく訊き辛い雰囲気はあったものの、初めて聞く名が気にかかり私は思い切って口を開いた。
「フォルゲンさんて……?」
すると今度も答えてくれたのは傍らにいた少年だった。
「フォルゲン兄ちゃんはね、ブライトの兄ちゃんで、姉ちゃんが将来結婚する人だよ」
……頭の中に関係図が出来上がるまでに少しの時間を要してしまった。そして、
「えぇ!?」
思わず大きな声が出てしまっていた。
(ちょっと待って!? ライゼちゃんに婚約者がいるってのは知ってたけど……ブライト君の、お兄ちゃん!?)
なんだかものすごく複雑な事実を知ってしまった気がした。
しかも今の会話からその彼が行方知れずだということも。
(そりゃライゼちゃん心配だよね。……でも、ブライト君てばなんて辛い立場なの!?)
こんな時だというのに、そんなことを考えてしまう私は余程のお節介者だろうか……。
と、そんな私の驚きようを違う意味にとったのだろう、ライゼちゃんがいくらか笑顔を取り戻して話してくれた。