My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
彼は驚くライゼちゃんの隣に膝を着き、ブライト君の腹に両手を当てやはり集中するように目を閉じた。
以前私の足を治してくれたときと違い、何かを探るようにその眉間にはいつも以上に深い皺が寄る。
ライゼちゃんはそんな彼を呆けたように見つめていた。
「うっ、あ、熱い……っ」
ブライト君がそう小さく呻くのが聞こえた。
ラグが前に言っていた。癒しの術は、相手の治癒力を高めるものだと。
おそらく今、急速に彼の傷が治ろうとしているのだ。
一分ほどそうしていただろうか。小さく息をつきラグが彼から手を離した。
「多分、もう治った筈だ。他んトコは自分でなんとかできるだろう」
「あ、ありが――っ!!?」
自分のお腹に手を触れ戸惑うようにお礼を言いかけたブライト君だったが、ラグを見上げた途端その口があんぐりと開かれた。
……無理も無い。人間がみるみる小さくなっていく様を目の当たりにしてしまったのだから。
ライゼちゃんもその赤い瞳を大きく見開いて、自分よりも小さくなった少年を見下ろした。
「え? 誰?」
その声に振り向くと、そこにはラウト君とヴィルトさんが立っていた。そしてその視線はやはり小さくなったラグの後姿に向けられている。
ラグはそんな皆の視線に耐えられなくなったのか、俯いたまますくと立ち上がるとそそくさとこの場を去ろうとした。
が、彼女がそれを見逃すはずは無く……、
「――いっ、愛しの子おおおおおおお~!!」
「ぎゃぁあああああ! 忘れてたあああああああ!!」
脱兎の如く駆け出したセリーンがその小さな後姿に飛びついた。
ラグはそんな彼女に罵詈雑言を浴びせながら、その腕から逃れようとジタバタもがいている。
久し振りに見るその光景に、ブライト君が治ったことへの安心感も相まって急に笑いがこみ上げてきた。
でもそんな二人をまだポカンと眺めているライゼちゃん達に気付き、私は慌てて説明する。
「え、えっとね。ラグって、術を使うと体が小さくなっちゃうんだ。それで、セリーンはその小さな姿が大好きでね。は、ははは」
苦笑しながら言うと、ラウト君がそんな二人のやり取りを見つめたままボソリと呟いた。
「楽しそう」
「あぁっ! もう、可愛すぎるぞこいつぅ~~♪」
「離しやがれ! この変態女ぁ――!!」
……ラグの絶叫は、結局彼自身が諦めるまで続いたのだった。