My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「く、クラー、ル……っ」
「あぁ? ライゼ“様”だぁ? 誰だそれは、聞いたことのねぇ名前だなぁ」
「あ、あ……」
「カルダ! クラールはまだ目を覚ましたばかりで、頭が混乱しているんだ。八つ当たり、なら、……私にしろ!」
「は、流石は優しいお医者様だ。そんじゃ遠慮なくやらせてもらうぜ!」
――正直、もう駄目かと思いました。
飽きたのか、漸くカルダが私から手を離したときには、もう目を開けているのがやっとでした。
「ぺっ、つまらねぇ!!」
そう吐き捨てカルダが家を出て行きました。
クラールが泣いていました。
「ごめんなさい、ブライト様。僕、」
「い、え、しかしこのままでは……。クラール、ひとりで平気ですか? 私は、ライゼ様に、このことを伝えに行きます」
「はい。僕はもう平気です。でも、ブライト様が……っ」
「はは、私は医者です、よ。……大丈夫。あなたはまず自分が元気になることを一番に、考えなさい。ライゼ様、そしてラウト様のためにも。わかりましたね」
「はい!」
そうして、私はクラールの家を後にしました。
◆◆◆◆◆
「――あれで、カルダの気が治まったとは思えません。最悪、村の者が脅されてこの場所を話してしまうことも考えられます。ですから、その前にどこかへお逃げ下さい、ライゼ様!」
ブライト君の目は真剣そのものだ。
それを伝えるために彼は命をかけてここまで来たのだ。ライゼちゃんの守り役として。
だが……、
「私はどこへも逃げません」
ライゼちゃんはそんなブライト君の目を見てきっぱりとそう答えた。
「ライゼ様!?」
「村の皆が混乱している最中、私だけが逃げるなんて出来ません。……決めました。私が村へ行き、カルダに直接交渉しましょう。今後村の者へ一切の暴力を振るわぬよう」
その言葉にラウト君、そしてヴィルトさんまでが目を見開いた。