My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
――ずっと、気にかかっていたのだ。昨日私は彼女に顔の傷を治してもらった。ということは、私は彼女の寿命を縮めてしまったのではないか、と。
すると彼女は私の言いたいことを察してくれたのか、優しく微笑んでくれた。
「大丈夫です。あの程度の術はラウトにいつも使っているんですよ。あの子良くあんな擦り傷を作ってくるので」
「そうなの?」
「はい。寿命が縮むというのは、本当に先ほどのブライトのような生死に関わる酷い怪我を癒す場合で……、ですから今は戦時中でない分、私は母よりずっと長く生きられるはずなのです」
「そう、なんだ……。でも、本当に治してくれてありがとう!」
ほっとして改めてお礼を言うと、彼女はもう一度にっこりと笑ってくれた。
と、セリーンが続けて彼女に訊ねた。
「確か、ランフォルセから派遣されて来ているのは、一つの村に一人か二人と言っていたな。カルダは一人だけなのか?」
「はい、普段ベレーベントにはカルダ一人しかいません。ですが、近くの村からたまにもう一人やってくると聞いています。その男は、駐在員の中では一番位が高いようなのですが、その男もカルダには手を焼いているようです」
「じゃあ、もしかしたらそのもう一人もいるかもしれないってことだよね」
「いると思っていた方がいい」
そう答えてくれたのはヴィルトさんだ。
「テテオの収穫時期が近い。連絡船もそろそろ着く頃だ」
「テテオ?」
聞き慣れない単語だ。すると、ライゼちゃんがもう一度振り返り教えてくれた。
「テテオはこの国でしか採れない果実です。そのままでは食べられないのですが、加工するととっても甘いお菓子になるんですよ」
「へぇ!」
思わずクッキーやケーキが頭に浮かんでしまい、こんなときだというのに危うく涎が垂れてしまうところだった。
そういえばこの世界に来てからというもの、ほとんどお菓子など食べていない。
(あ、ラグからチョコをもらったっけ)
ライゼちゃんが少し寂しそうな笑顔で続けた。
「昔は私もよく食べていましたが、今は収穫された分全てランフォルセに渡ってしまうので、もうずっと食べていません。……出来ることなら、また食べたいです」
「……き、きっと、絶対にまた食べられるよ!」
「そうですね。きっと――」
ライゼちゃんは笑顔で答えてくれた。
だが次の瞬間、彼女の足がぴたりと止まった。