My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

「さぁ、もう行こう。村の方が気になる」
「あ、あのね、セリーン」

 歩き出そうとしたセリーンを引き止めるように私は声を掛けた。
 セリーンが振り返る。

「ラグね、多分だけど……その時のこと、すっごく後悔してるような気がするんだ」

 セリーンが、驚いたように目を瞬く。

「ま、まだラグとは会ったばかりだし、いつも怒られてばっかで、たまに本気で怖いけど……でも、あ、悪魔なんて言われるほど、冷たい人じゃないと思うんだ。……だから、その」

 口に出しながら、自分が何を言いたいのかわからなかった。

 ただ、“悪魔の仔”という呼び名がとても嫌だった。

 私はその時に亡くなった多くの人を知らない。
 その時に大事な人を亡くした人の悲しみを知らない。

 私が知るのは、今のラグだけ。

 その私がそう思うことは、いけないことなのかもしれない。

(セリーンだって、戦争中に大事な人を亡くしているかもしれないのに)

 急に不安になって次の言葉が出ないで居ると、濡れてぺしゃんこになった頭にポンと手を置かれた。
 優しく目を細めたセリーンがそのまま私の頭を撫でる。

「セリーン、……怒ってない?」
「なぜ私が怒る必要がある。いや、今の言葉を奴に聞かせてやったらどんな反応をするだろうと思ってな」
「やっ、ヤダヤダやめて! 絶対またものすっごく怒られるから!!」

 本気で焦ってそう言うと、セリーンが手を離し珍しく声を上げて笑った。

「はははっ! 冗談だ、言ったりしないさ」

 ホッとするが、セリーンはすぐに笑うのを止め、もう一度真剣な顔で言った。

「奴が当時のことをどう思っているかは知らんが、奴を心底恐れ、心底憎んでいる者が多いのは事実だ。奴と行動を共にする以上そのことを知っておいたほうがいい」
「……うん」

 しっかりと頷くと、セリーンの表情が和らいだ。

「さ、もう行こう。ライゼたちに今あったことを伝えるのだろう」
「そ、そうだよね。早く行かなきゃ!」

 見るともう海岸にラグの姿は無かった。
 私たちは彼に追いつくため、大分弱まってきた雨の中を走った。



 ――ラグがその時のことを後悔しているかどうかなんて、本人にしかわからないことなのに。
 なぜそんなふうに思ったのだろう。

 私はもしかしたら、彼に後悔していて欲しいのかもしれない。
 後悔しているなんて、絶対に言わなそうだけれど。だからなのかもしれないけれど。


 あの小さな少年が、どんな思いで戦争の真っ只中にいたのか、知りたいと思っている自分がいた。

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