My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
頷こうとしたそのとき、「カノンさん!」と声を上げライゼちゃんがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「良くご無事で!」
安堵の表情で迎えてくれた彼女。でもすぐに一人足りないことに気づいたのだろう、その顔が不安げに曇る。
「ラグさんは……?」
「あ。ラグも大丈夫だよ! えっと、その……疲れたから先に戻ってるって」
「そうでしたか」
再びほっとした様子のライゼちゃん。でもその微笑はすぐにも崩れてしまいそうに見えた。
そんな彼女を早く安心させてあげたくて、私は満面の笑顔で言う。
「こっちはもう大丈夫。カルダのことは全部解決したよ!」
「!? ……どういうことですか?」
驚くライゼちゃんに、私は全てを話した。
やはり火を付けた犯人はカルダだったこと。でも、そのカルダは明朝着くであろう連絡船で本国へ帰され、この先、この国にカルダのような酷い人間が送られて来ることは無いだろうと話すと、ライゼちゃんはすぐには信じられないのか半ば茫然とした顔でその赤い瞳を見開いていた。
何より彼女が驚いたのは、それを全部指示したのがラグだということだ。
「ラグさんが……?」
「うん。なんだかんだでね、全部ラグがやってくれたんだ」
言うとライゼちゃんはラグが入って行った森の方へとゆっくり視線を送った。
その遠くを見る表情がなんとなく嬉しそうに見えたのは、私の気のせいなんかじゃないだろう。
(――もしかして、ラグがこの場に来なかったのって、ただ単に照れくさいから?)
本人には絶対に訊けないそんなことを考え、私は内心小さく笑ってしまった。
これをきっかけに、ライゼちゃんがラグのことを少しは好きになってくれたらいいなと思いながら、私もラグがいる森の方を見つめた。
いつの間にか雨が止んでいることに気がついたのも、この時だった。