My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「ぎゃん!!」

 正体も分からぬままに上がった叫び声。
 目を開けてまず見えたのは血の付いたナイフ。
 そしてその向こう。
 前足から血を流しこちらをぎらぎら光る瞳で睨み上げているモノ。
 背格好は狼や犬に似ていたが、違う。
 見たことのない生き物。地球上には絶対にいない動物。
 身体は真っ黒い毛で覆われ、足は6本。尻尾が蛇のようにとぐろを巻き、顔は狼よりも猿に近い。
 だらしなく開いた口からダラダラと涎を垂らしたその姿からは、否応なしに“モンスター”という名が連想できた。

(兵士の次はモンスター!?)

 想像以上にグロテスクなモンスターの姿、そしてこの現状から出来ることなら今すぐ目を背けたい。
 ラグの後ろで小さく震えていると背後でパキと乾いた音がした。
 恐る恐る振り向き愕然とする。

「ラ、ラグ!」

 思わず彼の服を引っ張る。

「わかってる」

 イラついた声。

「ここはコイツらのテリトリーだ」

 その声が合図だったかのように次々と姿を現す異形な生き物。

(狼の方が良かった~!)

 確認出来ただけで6匹。――完全に取り囲まれていた。

「カノン、そのままオレに触れてろよ」
「え? あ、はいっ」

 意図はわからなかったけれど、掴んだままだった彼の服を両手で強く握り直す。
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