My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
 その後ラグは近くにあった木の幹に触れ、「ありがとう。助かった」 とお礼を言っていた。
 今の小さな姿でそれはとても微笑ましい光景だった。
 だが本人はやはり不満なようで、その木から離れた途端盛大に溜息を吐いた。

「これで元の姿に戻るまで、もう術は使えないからな」

 言いながら早速進み始めるラグ。
 追いかけようとして私はぬかるんだ地面に足を取られてしまった。どうにかバランスを取り転ばずに済んだが、お陰で学校からずっと履きっぱなしだった上履きが中までぐっしょり濡れてしまった。
 気持ち悪いことこの上ないが、あのモンスターの餌食になることを考えたらこの足でスキップしたいくらいだ。

「どのくらいで元に戻れるの?」
「今のだと大分かかっちまうかもな」
「今のって、やっぱり術の大きさに関係するの?」
「みたいだな」

 みたいだな、と言うことは呪いがかかったのは結構最近のことなのかもしれない。

「でもすごいね、今の魔導術!」
「……そうか?」

(およ?)

 まんざらでもないような口調に、私は更に続けてみる。

「うん。すごいカッコ良かった! あれって木の水分を借りたってこと?」
「あぁ。良くわかったな」

 どうやら魔導術の話になると機嫌が良くなるらしい。
 顔は見えないが耳の後ろが心なしか赤くなっているように見える。

(……ちょっと可愛いかも)

 思わず顔がにやけてしまった。
 やはり断然子供の姿の方が接しやすい。

「いいなぁ、この世界の人って皆そんな力持ってるの?」
「皆が皆持ってるわけねーだろ」
「あ、そーなの? じゃあラグって凄いんだ」
「……お前の“歌”の方が稀な力だ。次もしまたモンスターに会っちまったら頼むぞ」
「え!? あ、うん」

 急に「頼む」と言われて私は驚く。

(そっか。しばらく魔導術は使えないんだもんね)

 今思い返すと昨夜空を飛べたのはマグレみたいなものだ。

(折角こんな力があるんだから、使えそうな歌考えておかなきゃ)

 私は歩きながら、モンスターに遭遇したときに役に立ちそうな詞とメロディーを思い浮かべていった。
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