My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「お前もあの野郎に会ってたんだな」
「え? あ、うん。あの牢屋にいたときに……。助けてくれたら元の世界に戻してくれるって」
「はっ。あんまり期待しないほうがいいぞ。あの野郎がそう簡単に帰すとは思えねーしな」

 鼻で笑うように言われて、私は足元がグラつくのを感じた。

「……でも、ラグが助けにきてくれるってことも教えてくれたし」

 小さく言う。
 なんだか嫌な気分だ。……胸のあたりがモヤモヤする。

「オレはあの野郎に、銀のセイレーンはグラーヴェ城にいると言われたから行ったんだ。誰かのお陰で呪いが解ける前に死にかけたけどな」

 再び目を瞑ったラグに、知らず拳を握り締める私。
 そしてラグの次の言葉で私のそれは爆発する。

「お前覚悟しとけよ。あの野郎に会ったら何されるかわかったもんじゃねーぞ」
「そんな言い方ないでしょう!?」

 私のその大声にブゥが肩から飛び立った。
 ラグの青い瞳が大きく見開かれる。

 自分でも何でこんな大声が出てしまったのかわからなかった。
 ただラグが、あまりにあの人を悪く言うから。

「私はエルネストさんに会って楽譜をもらって、元の世界に戻るの! だから私は、彼を信じる。……信じるしかないの!」

 いつまた崩れてもおかしくない足元を揺らして欲しくなかった。
 エルネストさんはこの世界で見つけた私の唯一の光だったから。
 その光を消して欲しくなかった。
 でも、私はすぐに我に返る。

 ――冷たい、ラグの視線。

 途端どうしようもなく恥ずかしくなって一気に顔の熱が上がる。

「勝手にしろよ。オレはこの呪いが解けりゃそれでいーんだ」

 ラグは吐き捨てるように言ってこちらに背を向けた。
 私はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 ブゥが、そんな私達を心配そうに見下ろしていた……。
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