My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「出発前に確認するぞ」
部屋を出る直前、ラグが私に言った。
「傭兵を雇えた場合、オレが術士だってことは秘密にしろよ」
「え? なんで」
「この国では術士だってだけで結構目立っちまうんだ。よほどのことがない限り、オレも術は使わない。わかったな」
私は頷く。
――魔導術にとても驚いていた城の兵士たち。
やはりこのレヴールにも国によって文化の違いのようなものが存在するのだろうか。
ふと自分のいた世界のことを思い出す。
その違いによって様々な問題が起こり、時にそれは争いにまで発展してしまう。
(みんな同じ人間なのにね……)
そういったニュースを耳にする度、いつも胸が痛んだ。
でもそれはきっと、私が平和な今の日本に生まれ育ったから……。
戦地では皆、自分達の思想を信じて必死で生きている。
この一見平和そうなレヴールにもそんな国同士の争いがあったりするのだろうか。
そんなことを考えていると、ラグが念を押すように付け加えた。
「あと、お前は絶対に歌うなよ」
「はい! わかってます!」
思わず手を上げそうになりながら私は返事をする。
なんだか先生に厳しく指導されている気分だ。
(そんなに歳変わらなそうなのになぁ)
なのにこの偉そうっぷり。
「そういえば、ラグって何歳?」
階段を下りながら訊く。
「もうすぐ20歳だ」
(ってことは今19か。ありゃ、二つも年上だったんだ)
「お前は?」
「17、です」
「見たまんまだな」
(それはどういう意味でしょうか)
なんだか馬鹿にされた気がしてこっそりむくれていたが、ラグの髪の結び目の影で黒い塊が揺れているのを見つけ、ついまた笑みがこぼれてしまった。