My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「なんだ、不満なのか? 彼女はあの魔導大戦の最中生き残ったほどだぞ」
聴いた瞬間、ラグの肩がぴくりと動いた気がした。
(魔導大戦……?)
耳慣れない単語にきょとんとしていると、椅子に腰を下ろしながら彼女が不機嫌そうに言った。
「こちらにも選ぶ権利がある」
ラグがそんな彼女を睨むようにして見下ろす。
一気に雲行きの怪しくなった店内にハラハラする。
(ラグのバカー!! 誰だって怒るって! 折角いい人が見つかったと思ったのにぃ……)
彼と一緒にいると昨日からこんなことばかりだ。
絶望的な想いですでに火花を散らす勢いの二人を見守っていると、彼女が腕を組み冷たく続けた。
「男のくせに恋人一人も守れないのか。情けない」
「あ?」
「へ?」
ラグと私の声がハモる。
「私は女子供以外護る気はないと言ったはずだぞ、主人」
「ち、違います! 恋人とかじゃ全然なくって……!」
気付けば彼女に声を掛けてしまっていた。
その瞳がまっすぐに私を捕らえて一気に心拍数が上がる。顔が真っ赤になっているのが自分でわかる。
(でも、ここのままじゃ……)
私はぎゅっと拳を握り、必死な思いで頭を下げた。
「お願いします! 私達をルバートまで護衛してください!」
静まり返った店内に私の声が反響する。
視線が痛くて、どうしようもなく恥ずかしくて顔を上げられないでいると、彼女の小さな溜息が聞こえた。
「わかった。引き受けよう」
「ホントですか!?」
「ただ、私は大の男を護る気はない。お前だけ護衛する。それでいいか?」
言われて私は恐る恐るラグを見上げる。
目が合うとラグは瞬間顔を引きつらせてから諦めたように大きく溜息を吐いた。
「金を払うのはオレなんだが……まぁ、オレも女に護られる気はないしな」
どうにか承諾してくれたらしいラグにホっとする。
「よろしくお願いします! えっと、私、華音と言います」
「私はセリーンだ。ルバートまで全力でカノンを護衛しよう」
そうして、私達は3人でセデの町を出発した。